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■ マンションの完成まで



    メールマガジンの掲載記事からの抜粋です。

     §1  敷地が決まるまで (第001号:H.19.04.02掲載)
     §2  基本計画と事前協議 (第002号:H.19.04.09掲載)
     §3  確認申請提出まで (第003号:H.19.04.16掲載)
     §4  確認済証取得まで (第004号:H.19.04.23掲載)
     §5  実施設計1 (第005号:H.19.04.30掲載)
     §6  実施設計2 (第006号:H.19.05.07掲載)
     §7  近隣説明1 (第007号:H.19.05.14掲載)
     §8  近隣説明2 (第008号:H.19.05.21掲載)
     §9  パンフレット作成 (第009号:H.19.05.28掲載)
     §10 パース、模型の作成 (第010号:H.19.06.04掲載)
     §11 モデルルームの建築 (第011号:H.19.06.11掲載)
     §12 工事の着工 (第012号:H.19.06.18掲載)
     §13 工事監理-地縄張り (第013号:H.19.06.25掲載)
     §14 工事監理-杭打、基礎工事 (第014号:H.19.07.02掲載)
     §15 工事監理-配筋検査他 (第015号:H.19.07.10掲載)
     §16 工事監理-躯体図作成 (第016号:H.19.07.24掲載)
     §17 工事監理-中間検査 (第017号:H.19.08.01掲載)
     §18 工事監理-メーカー施工図 (第018号:H.19.08.08掲載)
     §19 工事監理―仕上工事(住戸部分) (第019号:H.19.08.16掲載)
     §20 工事監理-仕上工事(共用部分) (第020号:H.19.08.23掲載)
     §21 工事監理-外構、植栽工事 (第021号:H.19.08.30掲載)
     §22 工事監理-竣工検査1(官庁、審査機関) (第022号:H.19.09.06掲載)
     §23 工事監理-竣工検査2(施主、設計事務所) (第023号:H.19.09.13掲載)
     §24 工事監理-内覧会 (第024号:H.19.09.27掲載)
     §25 引渡し (第025号:H.19.10.11掲載)
     §26 全体をまとめて (第026号:H.19.10.25掲載)







  §1 敷地が決まるまで

マンションディベロッパーが最初に手がけるのは土地探しです。土地が無けれ
ば当然何も建ちませんから当たり前の話ですが、これがとても重要で条件のい
い土地を手に入れれば、利益が保障されたと言っていいでしょう。そこでディ
ベロッパーの担当者は設計事務所にボリュームチェックの依頼をします。

多くの場合この作業は無料ですが、ディベロッパーがこの土地の開発を始めた
場合、かなりの確率で設計の仕事を住注できます。設計事務所はその土地に掛
かってくる法規制等を調べその土地にどの位の容積(延面積)が確保できるか
検討を重ねます。東京の場合は法定容積率いっぱいの容積を要求するので、こ
れが7割から8割程度であればまず手を出しません。荒っぽく法規を当てはめて
8割5分ぐらいいくと何とかして10割を目指します。建物として成立させつつ、
少しでも容積が取れるようにすることに悪戦苦闘するわけです。多くの場合日
影規制が最も厳しいので、上部階をセットバックさせながら階数を増やして行
くといったシュミレーションを重ねます。

何とか容積を確保できたら、次は住戸を割り振ります。何平米の住戸がどの位
できるか、バラエティにとんだタイプが出来るか等販売しやすい計画を提案し
ます。勿論途中でディベロッパーのチェックが入り要望に沿うように修正を加
えていきます。大体条件が揃った頃、稟議にかけるので計画案として一式にま
とめてくれといわれれば、ほぼこの仕事を受注できます。仕事にならないとき
は電話で「あそこは止めましたから」と連絡が入って終わりです。またかなり
頑張ってディベロッパーもその気になっていても、入札で負けて土地が手に入
らないこともあります。

仕事を受注出来た状態の計画ではまだまだ荒っぽい計画なので、これからが本
当の設計作業になります。


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  §2 基本計画と事前協議

敷地も決まり、事業が本格的に動き出すとディベロッパーからの要望により設
計を進めていきます。具体的には「何平米から何平米の住戸を何戸つくり、条
件の良い妻側住戸や最上階の住戸は1戸当たりの面積を大きくする」といった
内容です。また駐車場や駐輪場を何台分用意するか、エントランスホールの大
きさなど共用部分に関することも要望の中に入ってきます。さらにバルコニー
の奥行き、天井高さ、廊下の幅などは各デベロッパーで仕様が決まっているの
でそれに従った形にして行きます。事前協議を提出した後は大きな変更は出来
なくなるので、構造、設備の検討も平行して進めます。このあたりから週1回
の打ち合わせを持つようになり、設計事務所はその準備で毎週打ち合わせの前
日は徹夜になることもよくあります。

大体要望がまとまると、事前協議申請の準備に入ります。事前協議とは行政庁
(市役所、区役所等)の指導要綱に則った建物であることを示し、それに従う
旨の同意書を取り交わすことです。これを済ませないと通常確認申請を受け付
けてもらえません。法律的に確認の提出は出来るようですが、行政庁の指導に
従うかどうか解からない建物の確認を下ろすことは、近隣関係等で将来に問題
を残すので通常受け付けません。また一部条例に関しても事前協議時に確認し
ますので、こちらは法律ですから守らなければいけません。
事前協議の具体的な内容は、ごみ置場の設置、緑地の確保、駐車場の確保、電
波障害の対応、上下水道の計画提示、騒音、景観、近隣説明等です。これらを
担当する各課に図面と書類を提出して説明します。近隣説明については、近隣
の方々に理解を得られるまで時間を要しますので、説明を開始したことが明確
になれば取り合えず事前協議を通してもらえます。その他については、指導要
綱に従った計画内容であれば、それについて各課で注意事項が示された書類が
発行されます。最後に受付窓口(通常都市計画に関わる課)が取りまとめて、
その内容に同意するという書類を取り交わし完了です。


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  §3 確認申請提出まで

事前協議が終わり、つぎは建築確申請の提出となります。確認申請を提出する
段階では、プランの確定、面積の確定が必要になります。かなり具体的な部分
まで事前協議の段階で設計は進んでいるのですが、各住戸のユニットプランま
では出来ていないことが多く、この段階で詰めることになります。ユニットプ
ランを決めておかないと、採光の確保、換気の確保、シックハウス規制等の法
律に関わる審査を通すことは出来ません。確認申請を通した後のプランセレク
ト、フリープラン等での変更があった場合は必ず計画変更申請を提出すること
になります。ユニットプラン決定についてはディベロッパーの営業担当者も入
れて綿密な打合せを重ねます。マンション販売のパンフレットをご覧になられ
た方は良くわかると思いますが、ユニットプランは販売の中心的役割を担いま
す。これがお客さまのニーズに合わなければ、外観や共用部に力を入れても効
果が望めません。担当者と打合せをして完成したプランを他の部署や上司のチ
ェックが入ると大量の修正箇所が指摘されることが通常です。また面積調整を
要望されると、構造体の変更や検討も必要になってきます。計画段階の正念場
といえるかも知れません。

苦労の末ユニットプランが決まると確認申請図の作成に取り掛かります。基本
的には事前協議段階の図面に手を加える形で進めますが、確認申請図では正確
な面積算定図を要求されるのでこれを作成するに結構苦労します。以前お話さ
せていただきましたが、東京都内の場合ほぼ法定容積いっぱいに計画していま
すから、コンマ単位の正確さが求められます。それに加え、マンションの地下
住宅部分と共用通路部分は容積から除ける法律があるので、その部分を明確に
表現しなければなりません。作図的には一番厄介だと思います。

平面図には出来る限り法律のチェック事項を書き込みます。防火区画、採光条
件、階段の幅員、排煙規制、避難経路等表現できるものは全てこの中に書き込
みます。これを見れば計画の内容がほぼ全てわかるような図面を作れば、審査
官にとっても審査しやすくなりますし、こちらの手間も省けます。法規チェッ
ク図の良し悪しで審査がスムーズに運ぶかどうか決まるといっても言い過ぎで
はありません。経験上、法規チェック図を旨く作ることが出来る人は設計も上
手です。

その他の提出図は、敷地求積図、仕上表、立面図、断面図、矩計、日影図、設
備図(電気関係)、設備図(消防関係)、構造図、構造計算書等です。設備と
構造に関しては外部の協力事務所が作成します。大きな組織事務所では構造設
備の担当者がいる場合ありますが、一定規模以上の建物では意匠(計画)担当
者が作成することはありません。

必要図面と必要書類(表書、計画概要書、工事届、施主委任状等)が揃ったら
正、副二部(行政庁によっては消防用にもう一部)まとめて提出に行くことに
なります。


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  §4 確認済証取得まで

6年ほど前から、確認審査を民間の検査機関で行えるようになりました。確認
申請は指摘事項がなければ21日以内に検査を完了ささせなければならない法律
があり、民間の検査機関に提出すれば多少指摘事項があっても、直ぐに対応す
れば21日以内で確認を下ろしてくれます。それ以前に行政庁(市役所、区役所
等)に出していたときは、2週間ぐらいすると幾つか指摘事項が書いてある
「確認を期日までに下ろせない旨の通知」が来て、その後確認を下ろすまでに
1ヶ月ぐらいかかってしまうことがよくありました。役所としては下ろせない
理由を提示したから法律に反していないということでしょうが、明らかに21日
で下ろす気はないような対応でした。行政側に問題もあったと思いますが、建
物の規模に関係なく21日と決められていますので、大きな建物をきちんと審査
するには十分な期間ではないと思います。休日もあり消防の審査もありますか
ら実質10日程度で全てを見るのは不可能でしょう。私は耐震偽装が起きた原因
の一つはここにあると思っています。(国交省もそう感じていたらしく、今年
の6月20日から施行される、改正建築基準法では審査機関が21日から35日に延
ばされます。合理的な理由がある建物はさらに35日延ばせるので審査期間は最
長70日となります。)

マンション事業は日程が厳しい場合が殆どなので、通常は民間の審査機関に提
出して、21日以内で確認を下ろしてもらうようにします。民間の審査機関は受
け付けるときに、大きな問題がなければいつまでに確認を下ろすという引受書
を発行してくれます。ただ、スケジュールが厳しい中で作った申請図書には不
整合がよくあり、審査官も期日まで下ろさなければいけないので相当怒られま
す。設計事務所からすれば提出して一息つきたいところですが、そこから不整
合のチェックをして、図面を修正して審査官のOKが出るまではまだまだ気を
抜けません。提出2週間後位に「消防の審査に回した」といわれてホットする
ような状況だと思います。その後消防署から電話がかかってきて、指摘事項が
ある場合は修正に行けば、数日後確認済証が発行されます。

確認申請をスムーズに通すためには、事前に審査官とよく打ち合わせをしおく
必要があります。建築に関わる法律は相当数あり、審査官と解釈が異なるケー
スも多々あります。確認を提出した後、変更を要求されると大きな問題になる
ので十分な注意が必要です。


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  §5 実施設計1

確認申請が下りると次は幾つかの建設会社に見積をお願いするための図面を作
成することになります。確認申請時点の図面では、仕様が明確になっていない
ところが多いので、設計の詳細を表現しなければなりません。ディベロッパー
との打合わせでは、細かい納まりが中心になってきます。また照明の位置、ス
イッチ位置、共用部分の仕上げ等法規的に確認申請の審査に関係のなかった事
柄について詰めることになります。

設計事務所はエントランスホールのパースを描いたり、サンプルを集めたりし
てプレゼンテーションも行わなくてはいけないので、とても大変な時期です。
少人数の事務所などは総動員して作業に取りかかります。基本的に金額に関わ
ること全て決まっていないと、工事が進んでいくうちに問題になります。当然
あるべきものが抜けていたり、金額の高い材料の部分に安い材料が入っていた
りすると、安い金額で建設会社がディベロッパーと請負契約してしまい、お金
の出所がなくなってしまいます。また、いろいろな事情で増額や減額が発生し
た場合、契約時の見積を元に調整してゆくので、図面上でどの様な作り方でど
んな材料を使うといことが解かるようになっていないと、金額の調整が出来ま
せん。

見積金額に関することも大事ですが、設計事務所の能力を試されるところでも
あります。デザイナーズマンション以外では個性的なデザインは敬遠されるの
で、マンションはデザイン力を試される部分は少ないのですが、実施設計では
エントランスホールのインテリアをデザインしたり、外構部分をデザインした
り、外装タイルパターンを決めたり出来るので意匠的な能力を発揮できます。
またディベロッパーが「ここはもっと細く」とか「この接合部分は見えないよ
うにして欲しい」という要望が出ますので、詳細を考え上手く納める能力も求
められます。提示したものが認められ形になる喜びは、設計者にとってかけが
えのないものです。

上記にご紹介した内容はオーソドックスな行程ですが、最近は事情が異なって
来ています。工事金額の決定は図面の内容よりも営業が主体になり、見積書は
それにあわせて作成するようになって来ました。どこのディベロッパーでも建
設会社を絞り込むため、設計の途中で概算見積を取ります。大体そのときの金
額で事業を動かしますから、最終工事金額は概算見積時提示金額に近くなけれ
ばならなくなってしまうのです。その結果概算時に建設会社が見込んでいた仕
様にあわせなければいけなくなったり、機器メーカーを指定されてしままうこ
とが良くあります。「この条件なら細かいことを抜きにして、責任を持って工
事を請け負います」というような営業的駆引きがとても重要視されます。(そ
の結果、エンドユーザーにお求め安い価格で提供できることにはなります。)
さらにオプションの対応等でマンションの現場は変更作業がとても多くなって
いますから、一つ一つの変更作業に対して金額を当てはめることが難しくなっ
てきています。

従来のやり方では、仕様決定や現場業務が難しくなってしまったのは間違いあ
りません。ディベロッパー、工事施工者、設計者、購入者が納得できる工事発
注方法を考えていかなければいけない時期が来ていると思います。


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  §6 実施設計2

実施設計時に新たに作成する図面は、特記仕様書、平面詳細図、天井伏図、展
開図、部分詳細図、建具表、家具図、衛生機器図、昇降機図、外構図、植栽図
、サイン計画図等です。また仕上表と矩計図には確認申請図にかなりの修正を
加えます。

特記仕様書は図面の形になっていますが殆ど文字だけの図面です。設計図の中
では特記仕様書の内容が最優先されます。共通の認識がもてる部分に関しては
図を省略して文字だけで表現するようになっていて、よく出来た特記仕様書は
作図作業を楽にしてくれます。それだけにとても重要な図面で一文字間違える
と、見積金額が数百万変わることあるので慎重に作らなければなりません。通
常は計画の全体を理解している担当者が作成します。

作業量として一番大変なのが展開図です。多くの場合全てのタイプの展開図を
用意するようにディベロッパーから指示されます。見積をする場合は基本プラ
ンの展開図と部分図があれば問題ないと思いますが、全てのプランの展開図が
あったほうが販売しやすいことが理由のようです。今はなるべくバリエーショ
ンを増やして販売することが多いので50枚ぐらい展開図を描くことも珍しくあ
りません。展開図だけは外注をして図面を描かなければ間に合いません。ただ
最近はCADが出来たおかげで、似たタイプをコピーして少し修正を加えれば出
来るタイプもあるので、その点は助かっています。

家具図、衛生機器図、昇降機図は各メーカーが描いてくれます。この時点で受
注は決まっていないのですが、図面を描くことによって受注できる可能性が相
当高くなるので、既製品関係はお願いすれば喜んで描いてくれます。逆に仕様
がそれぞれ特別なので、設計事務所で全てを描くことは難しくなりました。

外構図、植栽図、サイン計画図は最後の作業という感じです。建物本体から独
立しているので、最後に一気に終わらせるようなことになります。しかし、仕
様によって金額が大きく変わる部分のなので注意しなければなりません。また
外構図は敷地に大きな段差がある場合には重要な図面になります。

上記の意匠図の他に、構造関係図と設備関係図も修正します。構造関係図は確
認申請図に部分詳細図が加わります。設備関係図は確認申請図に床暖房図等が
加わります。意匠図とあわせると300枚近くになることが多く、これを入札に
参加する建設業者数分用意します。図面の山をディベロッパーに届けて納品完
了です。設計作業の中で一番ほっとする瞬間かも知れません。

その後、入札参加建設業者を集めて現場説明会を開き、質疑回答を得て入札と
なります。最低金額を入札した建設業者とディベロッパーの間で細かい打ち合
わせを経て契約業者が決定します。


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  §7 近隣説明1

マンション建設の際、殆どの場合近隣説明会を開きます。これは各行政庁(市
、区等)の中高層指導要綱に従ったもので、一定以上の高さの建物を建てる際
行わなければなりません。近隣説明が上手く行かないと、販売価格に影響が出
たり、完成時期が遅れたりすることもあり、大変重要な仕事です。

近隣説明会は通常ディベロッパーが主体になって行います。設計事務所は設計
に関わる質疑が出た場合に回答できるように参加しますが、事業に関わること
なので余り積極的に発言しません。技術的なことを理路整然と説明すると、近
隣の方の意見を一方的に否定しているように受け止められて話がこじれること
もあるので、なるべく黙って議事の進行を見守ることにしています。

近隣の方にとって、自分の家の直ぐ近くに大きな建物が出来ることは大問題で
、それにより環境が一変してしまうこともあります。ですから建設反対の考え
に迷いは無く、自分たちは100パーセント犠牲者だと思っています。

一方、ディベロッパーは近隣に日影をつくり、景色を悪くし、視線に拠り生活
に影響を与える可能性がある事を申し訳なく思ってはいます。ただ法に触れる
事は一切やっていない自負があり、サラリーマンとして事業を成立させる任務
を滞りなく実行することは当然と思っています。

この話し合いは簡単には折り合いが付きません。近隣の方は、さすがに工事を
中止に追い込むことは無理だと直ぐに気付きますので、要望事項を提示します
。具体的には、1.視線を隠すために近隣に面するガラスはスリガラス(曇りガ
ラス)にすること、2.音が出る機械駐車に防音壁を設けること、3.日影が延び
ないように、または視線が届かないように階数を一層減らすこと等です。

これに対してディベロッパーは1.2.は認めても3.は認められません。マンショ
ン事業は、最後の数戸の売れ行き次第で利益が出るかどうか決まる事業です。
最上階は一番環境がよく高い値段が付けられます。また法規の関係で、最上階
の住戸を他の部分に積み上げることは殆どの場合出来ません。(出来る場合、
検討の余地はあります)建設場所に拠りますが、最上階が3戸程度でも1億以上
の売り上げ減が考えられ、事業が成立たなくなってしまいます。これに対して
近隣側は誠意が感じられないと怒ってしまい、話し合いが平行線をたどること
になります。

まれに近隣側が納得できず裁判になることもありますが、建築基準法上は問題
がない建物を計画しているので、着工延期等で相手に損害を与えることは可能
ですが、近隣側に実質的利益が生じることは殆どありません。時間は掛かりま
すが、お互い納得できるまで話し合いを継続するのが一般的です。

次回は近隣交渉成立までを紹介させていただきます


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  §8 近隣説明2

近隣交渉は近隣側、開発業者(ディベロッパー)側それぞれ立場が違い、それ
ぞれ自分の行動は正しいと思っているので、中々合意点を見つけるのは困難で
す。しかし、話し合いを進めていく内に近隣側は、開発業者が出来る範囲で、
近隣側の要求に対応しようとしていることを理解しはじめます。それにより若
干場の雰囲気は改善されますが、交渉の核心部分については中々理解を得られ
ません。

話し合いが平行線を辿って合意の道筋がつかないと、行政庁(市役所、区役所
等)に、あっせんや調停を依頼することはありますが、近隣側にとって事態が
急激によい方向に進むことは少ないようです。行政庁も法規違反をしていない
建物の規模を縮小するような調停案を提示すのは難しいと思います。多くの場
合、行政庁の担当者に間に入ってもらって、お互いが何とか我慢できるところ
で合意出来るように、話し合いを進めていくことになります。

近隣側にとって計画建物自体の不満もありますが、工事中の建設業者の対応も
とても気になります。休日の工事や、工事車両の出入り等について多くの要望
が出てきます。ところが、意外にもこの要望が解決に向かわせてくれる要因に
なることが多いのです。

近隣説明が始まった時点では、建設業者は決まっていません。話し合いが2ヶ
月3ヶ月と経過して話し合いの進展が見られなくなったころ、建設業者が決定
して近隣説明の打合せに参加してきます。このとき近隣側の要望の矛先は開発
業者から一気に建設業者に向けられるようになります。常識的な建設業者は近
隣対策費用も見込んでいますし、要望に対してきちんとした対応をとりますの
で、近隣側も安心します。それにより、開発業者に向けられていた敵意も薄れ
話し合いはまとまる方向に進みます。

私の経験では、建設場所の周囲に建設反対の幟(のぼり)がたくさん建てられ
ていた現場を担当しましたが、工事半ばで建設業者が約束を守って行動するこ
とがわかった時点で、幟を下げてくれました。粘り強く、相手の立場を理解し
ながら交渉を続けると、解決の糸口は見つかることを教わりました。

ここに上げた例は一例ですが、多くの近隣交渉は近隣側に不満を残しながらも
何とか理解を得ることが出来ます。泥沼化してしまい裁判になることもありま
すが、少ない例だと思います。ただ近隣側が「出来ないことは仕方が無いが、
出来ることを最大限やってもらう」という気持ちになるまでに、長い時間が必
要です。

結局、人に迷惑を掛けずに人は生きていけないことを、近隣説明会の度に教え
られます。建設関係に携わるものの業を考えさせられます。


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  §9 パンフレット作成

パンフレットの作成は、基本的に広告代理店が行いますが、設計事務所は出来
上がった図面をチェックします。実はこのチェック作業が、とても大変なので
す。

まず最初に設計図を広告代理店に渡し、トレースをしてもらいパンフレットの
たたき台を作ってもらいます。パンフレット作成開始時には具体的な設計図が
があるのが普通です。ただ細かい部分が決まっていないことが多く、コンセン
トの位置や照明の位置は、ディベロッパーの担当者とパンフレットチェック時
に決めることも少なくありません。

パンフレットは契約図書の一部ですから、基本的に間違いは許されません。施
工上の理由で一部変更の可能性がある旨を記入しておきますが、単純な見落と
しなどは責任を問われても仕方がないでしょう。また広告代理店が描いて来て
くれる図面は、必ずしも建築の専門家が描いたものではなく、設計事務所が渡
した図面を正しく理解していないことがよくあります。ですからチェック作業
は隅から隅まで注意深く行わないと、引渡し時点で問題が生じます。特に梁の
位置、開口の位置、コンセントの位置、照明の位置等は、購入者が家具のレイ
アウト等の具体的なイメージを持って購入するケースが多いので、間違いがな
いようにしなければなりません。

パンフレットは印刷をしなければならないので、入稿時間が決まっています。
ディベロッパーに缶詰になって、入稿時間ギリギリまでチェックを行なってい
ると「もう限界です」と広告代理店の担当者に原稿を取り上げられたこともあ
りました。パンフレットの出来は販売に影響を与えるので、死力を尽くします
。ただ未決定要素が残っている状況で作業を進めているので、どうしても完璧
なものは作れません。

間違いが許されないとは言っても、訂正のチャンスは与えられます。設計途中
の段階で作ったパンフレットは計画上、施工上問題になる部分が見つかること
があり、空調機や換気口の移動や、雨樋(竪樋)の移動をしなければならない
場所が見つかったりします。その場合は訂正版を出させてもらいます。販売初
期で説明を加えながら訂正図を渡し、誠意をもって説明すれば、問題になるこ
とは殆どありません。訂正は出来る限り早く、正式契約前に行うことが大切で
す。また下がり天井の発生など、専用部分の重要な訂正は、入稿から販売開始
の間に訂正を済ませる必要があります。

設計事務所にとって、パンフレットに関わる重圧は相当のものですが、この作
業は設計契約に営業協力をする項目がありますので、基本的に無料です。分譲
マンション特有の仕事ですが、経営的にも体力的にも大変な仕事です。


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  §10 パース、模型の作成

広告関係ではパンフレットの他に、完成見取図(パース)を描き模型を作りま
す。広告代理店を通して専門の業者に製作してもらうのですが、こちらのチェ
ックも大変です。図面からはなかなか読み取ることは出来ない部分も多く、詳
細な打合せが必要になります。

パースや模型を作成する時に必要になるのは、仕上げの決定作業です。大体の
イメージはできているのですが、どんな仕上材をどの様に用いるか決定しなけ
ればなりません。実際は出来上がったパースの下書きを見て決まることも多く
、それによって設計図を変更することも良くあります。

パースや模型は購入を検討している方が、全体のイメージを思い浮かべられる
ように作成するものですので、設計図のように緻密な正確さは求められません
が、あまり省略をすると問題になります。大きな全体図であっても購入される
方は自分が購入する住戸周辺を細かく見るからです。小さな窓を省略したり、
掃きだし窓を腰窓で描いていたりするとクレームになります。購入者の立場に
なって、チェックを進めることが大切です。

パンフレット、パース、模型は直接担当しているものでなければチェック出来
ません。また実施設計の時期に重なることが多く、忙しさのピークに達します
。徹夜で図面を仕上げた後、夕方から模型のチェックというようなスケジュー
ルもありました。分業が不可能な作業はどうしても厳しい状況になってしまい
ます。ただ完成した姿が次々とできて来る作業は、設計者として楽しい作業で
す。それで何とかめげずに頑張ることができているのだと思います。

本当は出来上がった状態を見て購入していただくのが一番良いのですが、マン
ションは完成即引渡しが原則なので、どの物件も竣工時完売を目指しています
。それは銀行への借入金の返済や売れ残りによる販売価格の下落(竣工1年で
中古物件になってしまいます)などが関係しています。ただ細かい精算は解か
らないのですが、広告費用は相当かけているので、どちらが利益を生み出すの
か疑問もあります。場所や条件を精査すればいろいろな方法が考えられるよう
な気もします。設計事務所としては、パースや模型を見ることが出来るのは楽
しい部分もありますが、不合理を感じることも時々あります。


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  §11 モデルルームの建築

分譲マンションの購入を考えたことがある方はご存知だと思いますが、殆どの
マンション販売でモデルルームを作ります。最初にマンションの設計を担当し
たときは、販売の為に完成住戸を実際につくってしまうことに驚きました。販
売が完了したら壊してしまうので、凄くもったいない印象を持ちました。しか
しモデルルームこそマンション販売の本丸で、ここから全てが始まるといって
も過言ではありません。

一般にモデルルームと販売事務所は同じ場所に作られます。チラシやポスター
など多くの広告を出しますが、完成した住戸を実際に体験出来ることに勝るも
のはありません。視覚と触覚に訴えることが出来る唯一の場所といってよいで
しょう。いい感触を得たお客様には営業担当者が販売事務所で詳しい説明をし
、上手くすれば契約の内諾をいただけます。モデルルームがなければ、購入希
望者と面接する機会をつくるのは大変なことです。やはりお金をかけて作るだ
けの価値はあると思いました。

モデルルームを作る具体的な作業として、ディベロッパーが選択したタイプの
住戸の図面を施工業者(マンションを建設する施工業者とは違うことが多いで
す。)に渡し施工図を描いてもらいます。施工図とは設計図を元に、実際に建
物を作る為の詳細図で、使用するボードの厚さや仕上材料、コンセントの位置
や照明機器の配置も明記されています。時期的には実施設計の頃と重なります
ので、細かい部分が決まっていないことが多く、とりあえずモデルルームにす
るタイプを先行して細かい部分まで仕様を決定します。上手く行かないところ
は、モデルルームを作りながら変更を加えることもあります。モデルルームは
販売用に作るものですが、結果として仕様を最終的に決める為の原寸模型の役
割を果たすことも良くあります。

施工図が出来上がると、チェック作業に入ります。モデルルームと現実に出来
るマンションで相違で点があれば、購入者からクレームが出ますので、パンフ
レット作成の時と同様に慎重にチェックします。

図面を承認してしばらくすると、完成が近いので現場を見て欲しいとディベロ
ッパーに依頼されます。この期間は大変短く感じ、今まで紙の上でしか存在し
なかったものが、いきなり目の前に現れるので、感動と驚きと心配が混ざった
ような気持ちになります。細かい部分を確認して、幾つか修正箇所を指摘すれ
ば、モデルルーム施工に関する設計事務所の仕事は完了です。その後スタイリ
ストが乗り込み、部屋の中に家具や小物を配置します。販売資料用の写真を撮
影しマンション販売の準備はほぼ整います。

モデルルームはマンション本体工事にも大変役立ちます。図面でわかりにくい
部分は、モデルルームを見てもらうのが一番伝えやすく、コンセントやスイッ
チの高さなど仕様の統一に役立ちます。現場が始まると何回か、モデルルーム
の見学会を開き建設業者は数百枚の写真を撮って施工資料を作ります。モデル
ルームを作るにはとても費用が掛かりますが、販売の為だけではなく、施工の
効率性、信頼性の向上に役立っている点からも価値あるものです。


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  §12 工事の着工

マンション販売の準備も整いよいよ着工となりますが、着工前に解決しておか
なければならないことがあります。建設業者が決定した時点では、まだ請負契
約は完了していません。多くの場合、条件付で建設業者が決められていて、機
能、満足度を買えずにコストを抑える手法(バリューエンジニアリング:VE)
の検討をして建設業者が利益が望める条件になった状況で正式に請負契約を行
います。設計を見直し、効率の良い材料、工法の検討を行いますが、なかなか
目標の数値に届きません。時間的な制約もあるので、やや不満を残したまま契
約に至ることも多いようです。「現場が始まってから調整すれば何とかなるだ
ろう」という見通しを立てると現場所長は苦労を強いられます。設計事務所は
VEを行うと、設計図も修正しなければなりません。請負契約には図面も添付し
ますので、変更が多いと結構な作業量になります。

住宅性能評価を取得する場合、着工前に設計事務所は設計性能評価を取得しな
ければなりません。設計性能評価の後、実際に建設された建物に対して建設性
能評価を取得することになるのですが、検査機関は設計評価通りに建設されて
いるかどうかを検査して建設評価を与えることになります。したがって着工前
に設計性能評価が取得されていないと、着工時に検査対象が存在しないことに
なり、最終目標である建設性能評価を取得できなくなってしまいます。建物全
体の評価書と別に、全ての住戸一つ一つで温熱、劣化、音、維持管理等の等級
の認可を受け評価書を取得しなければならないので、大変な作業になります。
住宅性能評価(住宅性能表示制度)について詳しくは下記のホームページを参
考にしてください。

請負契約が完了したらいよいよ建設業者が現場に乗り込みます。最初に現場事
務所を設置しなければなりませんが、都内のマンション現場では敷地に対する
建物の割合が高く、敷地内に現場事務所を建てられないことよくあります。近
くのアパートやマンションを借りて現場事務所とするケースが多く、まれに空
き地が見つかればそこにプレハブの現場事務所を建てます。

敷地に地縄を張り(建物の配置を決定することです)地鎮祭を行い工事を始め
る準備は整います。その後杭を打ちますが、正式な着工日は杭を打ち始めた日
を指すことが多いようです。最初に、支持地盤の確認や杭の施工方法を確認す
るため試験杭を打ち込みます。設計事務所は試験杭施工に立ち会いますが、私
はこのとき現場が始まったことを実感します。

杭打ちまでは、忙しく現場は動きますが、その後しばらく落ち着きます。マン
ションの施工は振動や騒音で近隣に迷惑をかけないように、現場打ち杭といっ
て、大きな穴を開けてそこに鉄筋かご入れてコンクリートを打ち込む方法を取
ります。現場で杭そのものを作るやり方です。直径1メートル位の杭を支持地
盤まで数十メートル打ち込むので大量のコンクリートを使います。これを柱の
数位の本数打ちますから相当時間が掛かります。その間にその後の工事の段取
りをするのが一般的で、基礎の配筋の検討、施工図の作成もこの期間に行いま
す。


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  §13 工事監理-地縄張り

設計事務所は現場が始まると、工事監理をすることになります。監理とは工事
が法律上、設計仕様上適切に行われるように指示確認を行うことです。建設会
社の現場所長が行うのは同じカンリでも「工事管理」と書いて多くの職人を束
ねて工事が計画通りに進行するように指示監督を行います。

工事監理の具体的な仕事としては、検査の立会、結果の確認、施工図のチェッ
ク、設計変更の対応、現場からの質疑回答、工程の確認、官公庁への対応等で
す。施主からの要望で工事期間中に変更をすることもあり、現場との調整も行
います。今後、しばらくの期間マンション工事進行に従って、工事監理の内容
を紹介させていただきます。

工事を始めて最初に行う作業が地縄張りです。地縄張りは建物の配置を決める
作業で、測量技師が入って正確に位置を決めて行きます。設計事務所は位置を
確認する作業を行いますが、最初に決めた位置で最後まで作業が進められます
のでとても重要な仕事です。杭を打ち始めたら、動かすことは出来ません。

敷地が測量図と完全に一致していれば問題はありませんが、数センチの誤差は
発生する可能性があります。特に都心のマンションは敷地に全く余裕が無いケ
ースが多く、調整が難しくなります。そこで重要なポイントになる部分で、設
計時に寸法に余裕を見ておく必要があります。例えば道路斜線といって道路か
らの距離が問題になる法律があるのですが、実際は図面上道路から2メートル3
センチ取れていても、2メートルと記入して確認申請を通しておきます。そうす
れば敷地に誤差が生じても道路側に3センチまでなら移動できます。建設会社
も測量技師もそこまでは把握していないので、調整が必要になった時に的確に
指示を出さなければなりません。

また近隣の塀の基礎がこちらの敷地に出っ張っていたり、排水管がこちらに入
ってきたりしているのが、地縄張りをしているときに見つかることが良くあり
ます。隣地との境界の確認は既に終わっているのですが、建物を解体して更地
にしてみると後から見つかるものも出てきます。敷地を用意するのは施主側の
責任になりますので、施主に報告して問題がないように対応してもらいます。


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  §14 工事監理-杭打、基礎工事

地縄張りを済ませると、杭打工事が始まります。杭打に使う大きな重機が乗り
込んでくるので、本格的に工事がスタートする意識が高まります。以前、書か
せていただきましたがマンションでは場所(現場)打杭(現場でコンクリート
を地中に打設して杭を作る方法)が主流ですが、穴を先に開けておいて既製杭
や鋼菅杭を埋込む方法を行うこともあります。何れにしても近隣に振動や騒音
で大きな迷惑をかける打撃工法は行いません。

杭の最初の1本目は試験杭となるので設計事務所は、支持地盤の深さや、施工
状況を確認します。試験杭の施工に問題なければ、継続して他の杭の打設作業
を進めてもらいます。敷地の条件から杭工事を進める重機は1台となることが
多いので、場所打杭の場合1日に2本程度しか施工できません。そのため完了す
るまでに1ヶ月以上かることもあります。

杭の打設期間中に基礎の施工図を作成してもらいます。基礎の施工図作成は、
配筋の確認、設備配管が通る部分のスリーブ(配管の通る穴)位置の決定、人
通口の配置が絡んできて作成がとても大変です。特に設備関係の決め事は時間
がかかります。スリーブには補強が必要でコンクリートを打つ前に設置をして
おく必要があります。基本的にコンクリート打設後にスリーブを開けると補強
が入らず、鉄筋を切ってしまうので開けることは出来ません。後から間違えが
見つかりると、予備スリーブを使う配管ルートに変更したり、人通口に配管を
通したりすることを考えなくてはならず、勾配も関係するので大変な手間がか
かります。現場が始まる前から基本的な部分は検討しておいてもらわないと、
かなりバタバタすることが多いです。型枠を組み立てる直前に変更ということ
も珍しくありません。

杭打が完了すると、杭の頭が出てくるまで地面を掘削します。地下室があると
掘削工事も時間をかなり要します。また水が大量に出て来ることがあり、工事
がスムーズに進まないことも良くあります。近隣の土地に影響が出ることもあ
るので、慎重に作業を進めなくてはいけません。杭が出てきたらその位置を正
確に出してもらいます。杭の位置が設計と基準数値以上違っていると、基礎を
変更することになるので重要な仕事です。変更した場合、計画変更申請を提出
して確認済証を取らなければならなくなるので、結果がとても気になります。
杭の位置に問題が無ければ、施工図に従って基礎の施工に入ります。


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  §15 工事監理-配筋検査他

掘削工事が完了すると、杭頭処理といって1メートルぐらい杭の頭のコンクリ
ートをはつり取り、鉄筋をむき出しにします。この鉄筋が基礎の中に入って建
物と杭が一体になります。その後、苦労して作成した基礎の施工図に従って配
筋工事に入りますが、基礎の配筋は複雑で時間もかかりますので、その間に建
物本体となるコンクリートの配合を決める作業を行います。

コンクリートの強度等の仕様は設計図に指示していますが、その条件に合った
コンクリートの配合は、コンクリート生産業者と建設会社が決めて配合計画書
を作成し、それを設計事務所が確認することになります。その後、試験練を行
い配合通りのコンクリートを作り強度を確認します。配合や強度の試験に立会
うのも設計事務所の大切な仕事です。

水セメント比という基準があって、最大65パーセント以下という決まりがあり
ます。セメントに対する水の重量比で、数値が少ないほうが強度も強くなり、
耐久性も良くなります。マンションでは金融公庫の基準や住宅性能評価の等級
確保の為、55パーセント以下に指定することが多いです。ただそのために調合
の関係で、単位水量という基準が最大値の185キログラム/立方メートルとなっ
てしまうことがよくあります。単位水量はコンクリート1立方メートルの水の
量で、少ないほうが乾燥収縮に拠るひび割れ等を避けることが出来ます。高性
能AE減水剤というコンクリート混和剤を使用すれば、単位水量を下げることが
出来るのですがお金がかかります。ディベロッパーによっては単位水量まで基
準を設けて180キロや175キロの指定をしていることもありますが、その場合
(他の条件により、数値が変ることもありますが)必然的に高性能AE減水剤を
使用しなければならなくなってきます。マンションを購入されるときは、水セ
メント比と単位水量はチェックしたほうが良いかも知れません。

基礎の配筋が大体出来上がると、検査を行います。鉄筋の材質、太さ、本数、
配置を主に検査します。1本1本、全ての鉄筋を検査することは困難なので、主
要な部分の材質、太さ、本数を調べ他の部分は施工会社がチェックした書類を
確認します。しかし配置に関しては基本的に全体を見ることにしています。か
ぶり厚さといって型枠と鉄筋までの距離を確保することを鉄筋コンクリート構
造ではとても重視します。これがきちんと出来ていないと鉄筋のさびによる爆
裂、コンクリートの剥離に繋がります。鉄筋は色々な方向から複雑に絡み合っ
ているので、納めるのが困難でかぶり厚を確保するのは大変です。基準より離
れが少ない部分があると、鉄筋を動かしてスペーサーを入れます。計画性に優
れている現場は整然と鉄筋が並び、修正するところは少ないのですが、時間に
追われている現場は全体的に鉄筋が暴れていて修正するのが大変です。

配筋検査時に設備スリーブの位置、補強も確認します。また耐力壁に窓等を設
けた場合、床にハッチを設けた場合等、その周辺には設計で指示した補強筋が
必要になるので、きちんと入っているか検査します。

鉄筋がしっかり納まっている建物は、耐力的にも、耐久的にも、外観的にも優
れた結果をもたらします。躯体工事の要と言っても良いでしょう。コンクリー
トを打設してしまえば見えなくなってしまいますし、後から修正することは出
来ませんから配筋検査はとても重要な仕事です。


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  §16 工事監理-躯体図作成

建物を造るとき、木造でも鉄筋コンクリート造であってもまず構造部分を造っ
てその後仕上げをしていきます。マンション建設に於いてもまず躯体工事とい
う構造部分を造る工事があります。基礎から屋上の立上がりまで、コンクリー
トで造る部分が躯体工事の範囲です。以前基礎工事の施工図作成のお話をさせ
ていただきましたが、基礎部分は主に設備関係の調整が重要視されますが、実
際に入居する部分の躯体は仕上関係の調整が加わってきます。

住戸部分の躯体図を作成するには、室内の仕上げ、設備の配置、窓の正確な位
置、外壁の仕上げ厚等が全て決まっていないと描くことは出来ません。コンク
リートを打設してしまえばもとに戻すことは出来ませんから、慎重に作成しな
ければなりません。

まず外壁がタイル貼の場合、タイル割といって半端なタイルが出ないように割
付を調整します。場合によっては外壁の厚さを調整することもあります。また
コンクリートの伸縮に拠るひび割れが発生しないように柱の両側と3メートル
位のピッチで壁にも伸縮目地を設けます。それらがきれいに外壁面に並べられ
たら、タイルの桝目に合うようにサッシを配置します。アルミサッシは一つ一
つ寸法を指定することが出来ますので、サッシとタイルがぶつかるところで半
端が出ないように寸法を決めていきます。

室内からは設備関係の配置が重要です。コンセントの位置や照明の位置は配線
を埋め込むために正確な位置が決まっていなければ躯体図を作ることは出来ま
せん。また排気ダクトのスリーブ(外壁に開ける穴)の位置も天井の形状等が
決まっていないと決めることが出来ません。そこで総合図といって平面詳細図
に設備図を落とし込んだ図面を作図してもらいます。その図面を基に設備に必
要なスペースと、壁や天井の位置の調整をします。間仕切り壁の厚さが正確に
出ていないと寸法がずれてしまいますので、ボードの厚さや断熱材の範囲まで
正確に作図します。同時に設計時に設定した設備機器やドア等の位置が問題が
無いかチェックをします。また外壁に開けるスリーブは出来れば外壁タイル目
地に合わせるように配置します。総合図が完成したら、それを基に躯体図を完
成させます。

躯体図は建物を造る情報の殆どが組み込まれている重要な施行図です。さまざ
まな工程を得なければ躯体図は完成に至りません。設計事務所は躯体図を描く
ことはありませんが、寸法を決め出来上がった躯体図をチェックします。型枠
の加工等で先行してチェックしなければならないこともありますが、1回のチ
ェックバックで済んだことは無く、大概3回以上図面をやり取りすることにな
ります。

躯体工事は地下と1階に時間をかけますが、2階以上は同じパターンが続くので
急にコンクリート打設ピッチが早くなってきます。ですから基礎工事の段階か
らしっかり準備をしなければなりません。躯体図の良し悪しが建物の完成度に
直接結びつきます。精度の高い躯体図が出来ればその後の工事はスムーズに進
行します。


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  §17 工事監理-中間検査

マンションを建設中に多くの検査を受けることになります。施工者や設計事務
所の検査以外に市や区または指定確認検査機関の検査、消防署の検査、ディベ
ロッパーの検査等が行われます。特に住宅性能評価認定を受けようとしている
場合は頻繁に審査機関の検査が行われます。今回は一般的なケースとして、建
築の検査済証を取得する為の検査を中心に紹介させていただきます。

ある程度の規模の建物では特定工程を指定され、工事がその工程に差し掛かっ
た時点で建築確認提出機関(市、区、指定検査機関等)の検査を受けなければ
なりません。この検査に合格しなければ、その後の工程に進めなくなり工事が
ストップしてしまいします。通常は2階の床梁の配筋が見える状態で検査を行
います。主に配筋を検査しますが、構造関係全般と建物の配置等が設計通りに
行われていることを検査します。

工程が厳しい現場では、配筋が終わると直ぐにコンクリートを打設するように
しなければ工期が遅れてしまいます。しかし中間検査が行われるときは数日間
余裕を見ておかなければなりません。ただ出来れば指摘事項を出来るだけ少な
くして、検査の翌日にコンクリートを打設したいところです。ですから検査に
関わる手続き等をスムーズに行わなければなりません。

中間検査を受けるには申請書を提出しなければなりませんが、法律上検査を受
けることが出来る状態まで工事が終わっていなければ提出できません。そこで
検査数週間前に検査の予約を取っておいて検査官のスケジュールを明けておい
てもらいます。そうしておけば提出して直ぐ検査を受けることが可能になりま
す。逆に予約を取り直すと検査が何日も先になってしまいますので、なんとし
ても予約をした日に検査が受けられるように工事を進めます。

検査で指摘をされるのは、鉄筋のかぶり厚さや設備スリーブの位置等が多く、
指摘事項は適切に修正して写真をとって報告することになります。コンクリー
ト打設前日の午後に検査をしてもらい、その日のうちに修正をして翌日朝一番
で写真を提出すれば、検査に拠る工程の遅れはありません。理想を言えば指摘
事項無しならば、バタバタすることも無いのですが、よく出来ていれば出来て
いるなりに細かい部分まで検査をするので、幾つかの指摘を受けることになり
ます。また修正に時間がかかる指摘を受けた場合は、修正報告が完了するまで
次の工程に進めませんので予定を変えなければなりません。

中間検査は、主に工事が進行してしまえば見えなくなってしまう部分を工事途
中で確認することが主な目的です。ディベロッパーは設備配管等、性能に関わ
る部分を仕上げをする前に検査します。消防署も防火区画、消防設備の配管等
について検査を行います。検査を通り仕上げをしてしまえば、その後人目に触
れることはなくなってしまうので大切な検査です。単に検査を通れば良いとい
うことではなく、後々問題が起これば大変なことになるので、責任の重大さを
感じしっかり施工しなければいけません。


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  §18 工事監理-メーカー施工図

マンション建設工事の現場監理をして行く過程で、多くの建材機器メーカーか
ら図面が出てきます。アルミ建具、スチール建具、木製建具、家具、システム
キッチン、ユニットバス、洗面化粧台、アルミ手摺、エレベーター、機械駐車
場等です。基本的にこれらの図面全てチェックして確認印を押してから製作が
始まります。以前は設計事務所の印が無いとメーカー側も動かなかったのです
が、10年ほど前から建設現場所長の承諾があれば製作を始めてしまうようにな
ってきました。

詳しくは解からないのですが、丁度その頃施工図の承認は契約行為であるため
、承認印を押した図面一枚一枚に税金がかかるという判断が下されました。一
枚にかかる税額はわずかですが、枚数が多量の為相当の金額になります。そこ
で業界の代表者が話し合い、図面を確認したことを示す印鑑を押して変更指摘
がないまま規定日数が経過した図面は承認と同様の意味を持つことを決めまし
た。設計事務所は責任感から承認出来る状況でなければ確認印は押しませんが
、製作許可を示す承認印と一通り図面を確認した意味を持つ確認印では受け取
る側の重みが違うのでしょうか。製作物ができていなければ工事がストップし
てしまうので、工程が押し迫っている状況では所長の判断による見切り発車は
ある程度仕方が無いのかも知れません。勿論、常識ある建設会社は問題が発生
すれば責任を持って対応します。

製作開始が可能といっても、現場所長も責任が自分にかかってくるので設計事
務所のチェックを重視します。ですから各工程で必要になった時期に大量の図
面が届けられチェックすることには変りません。一番チェックが大変なのはア
ルミサッシ図です。とにかく枚数が多く、以前紹介させていただいたタイル割
りにより、寸法が変更になっているので一枚一枚チェックが必要です。また出
窓、トップライト等の特殊サッシは納まり寸法も確認しなければ、現場に運ば
れてきても取り付けることが出来なくなってしまいます。

施工図がCADで描かれるようになってから、サッシの施工図の枚数が増えまし
た。通常、コンピューターを使うのだから、情報が整理され図面枚数が減ると
思われますが、手描きの場合は作業量を少なくする意味でも、形状ごとに整理
して寸法表を作り出来るだけ図面枚数を減らす工夫をしていましたが、CAD図
面はコピーが容易なので、形状ごとに整理せずに1箇所1図面を描いてきます。
また以前は現場に原図を持ち込み修正をしてきましたが、CADの場合データー
はコンピューターの中なので、例えば200枚の図面中、30枚に訂正を入れて返
却すると修正してまた200枚渡されます。これを3・4回繰り返してようやく完
了です。手元には図面の山が残ります。この辺は効率の良い方法を考えていか
なくてはいけないでしょう。

建設会社も施工に問題が無いように確認していますが、設計事務所がチェック
することにより施工精度が上がります。例えば寸法誤差をシールで調整します
が、その幅を小さくし見栄えが良くなるチェックを加えます。建設会社として
は寸法を大きく括ったほうが、施工しやすいのですが、設計事務所は許される
限りその場所にあった寸法にしようします。建設会社は迷惑かも知れませんが
、立場が違うものがチェックすることにより、建物の価値を高めることが出来
るわけです。

工場製作をするメーカー施工図は寸法の間違いは許されません。躯体工事、仕
上工事に影響を与え、工期的にも重要なポイントになるのでしっかりした対応
が必要です。メーカー施工図のチェックが終わると、図面確認作業はほぼ完了
です。


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  §19 工事監理-仕上工事(住戸部分)

躯体工事が完了し、型枠を取り外すと仕上工事に入ります。仕上工事は多くの
作業が関係するので、工程をしっかり組まなければなりません。例えば電気配
線が完了していなければボードを貼ることは出来ません。また壁クロスが貼ら
れていないと、巾木が付けられなくなってしまいます。他の作業の出来が悪い
為、迷惑を受けることもあります。例えばコンクリートの壁にクロスを貼る場
合下地を調整しますが、下地調整する左官工事に問題があると、クロスをはが
して作業をやり直さなければなりません。作業ごとにお願いしている業者は違
うので、取りまとめる建設会社の現場所長は現場のチェックをしっかり行わな
ければなりません。

仕上工事は次々と色々な作業が関わってくるので、設計事務所はポイントを絞
って検査をします。型枠を外すとサッシを取り付け断熱材を吹付けますが、適
切に断熱材が吹付けられているか検査をします。特に下階が外部(駐車場等)
になっていたり、隣の住戸が後退したりしていて外気に接する部分がある場合
は注意が必要です。また断熱材の厚さは建物性能上重要なポイントになるので
検査用の鋲を刺して厚さを確認します。

住戸部分はパンフレットとの相違が発生しないように特に注意します。コンセ
ントの位置、照明の位置、天井高さ形状等はボードを貼る前後にチェックしま
す。施工図を作成する段階でチェックをしてありますが、単純な間違いや納ま
り寸法が予定より必要になる場合があり現場を確認することが必要です。修正
できるものは修正した上、どうしてもパンフレットと違ってしまう場合は施主
に報告します。それが施工誤差の範囲と認められる場合は問題がありませんが
、そうでない場合は施工方法から再検討します。いづれにしてもなるべく早く
間違いを発見して、完全に仕上てしまう前に修正することが大切です。

仕上工事部分に関して殆どの決定必要事項は図面上完了していますが、玄関床
の石の割付やオプションの対応についての指示を行います。現場のチェックに
関しては、仕上工事部分は修正必要ヶ所があったとしても対応しやすいし、工
事途中で指摘しても作業中に傷をつけてしまうことも多く、目に余るもの意外
は余り細かい部分を指摘することはありません。どちらかと言うと工程や図面
の読み違いによる誤った施工が無いかどうか確認することが重視されます。最
終的に竣工検査において、膨大な指摘事項が出てきますのでそれを綺麗に修正
してから入居者に見てもらうことになります。

仕上工事は工期の厳しさが、仕上がりの良し悪しにまともに影響します。最初
から厳しい工期を求められる場合もありますが常識的な工期がある場合、仕上
工事に至るまでしっかっりした現場管理が出来ていれば工程に余裕が生まれ、
仕上がりが綺麗になり手直しも少なくなります。工事全体の結果が最後に一番
目立つ部分に表れるのは象徴的です。


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  §20 工事監理-仕上工事(共用部分)

共用部分の仕上は、足場をなるべく早く撤去する必要性から外壁タイル工事が
先行します。タイルは色を特注で作ってもらうことが多く、製造に時間がかか
ります。以前検査を手伝った現場でタイルの枚数が足りなくなり、追加のタイ
ルが出来るまで数週間作業が中断し足場を外すことが出来ない現場がありまし
た。足場が外せないと、外構工事に手が付けられないので工程に大きな影響を
及ぼします。タイルはある程度余裕を持って枚数を確保しておくことが大切で
す。

タイル割りに従って施工を進めますが、コンクリートの打設が悪いとタイル面
に下地の凸凹が仕上面に出て来るので注意が必要です。ひどい場合は左官処理
を行ってもらうことがあります。また最近は意匠的に貼付けパターンが複雑に
なっていて、確実に指示が伝わっていないと間違って施工してしまうことがあ
ります。同じパターンでどんどん貼り続けてしまいますので、注意深く現場を
見て間違いを見つけた迅速に指示をすることが大切です。目地埋めも仕様に従
ってきちんと施工できていないと、剥落に繋がるので注意しなければいけませ
ん。

共用廊下部分は勾配がゆるく、形状も複雑になることが多く、水溜りが出来や
すいので水勾配が正確に取れているか確認します。特にエレベーター周辺はエ
レベーターシャフト側に水が行かないようにする為、逆勾配になり注意が必要
です。また通常エアコンの室外機を共用廊下側に置いていますが、ここから発
生する排水は深さ数ミリの溝を流し廊下を横断して廊下先端の排水溝まで流れ
るようにします。エアコン排水用の溝は深さが浅いので少しでも転がると廊下
に水が流れてしまい調整が難しい部分です。

エントランスホール廻りは、マンションの中でも一番意匠的に重要な部分で床
や壁に石を使ったり、天井を折上げ天井にして間接照明を使ったり、カウンタ
ーを複雑な形状に仕上たりするので多くの作業が入り混じりとても手間がかか
る部分です。天井工事については設備関係の配管が集中しやすい部分でもあり
、設計図通りに施工が進まないことがよくあります。設計事務所は意匠的に大
きな変更が生じないように、設備工事と建築工事を上手く調整します。

最近のマンションはエントランスホールのデザインに力をいれていて、硝子パ
ネルや筒状の特殊タイル等を使用するようになり、材料の管理や細部の納まり
も難しくなってきています。それだけディベロッパーの意識も集中する部分な
ので神経を使います。

住戸部分と違い、共用部分は入居者の目に触れ難い部分が多いので入居者に代
わってしっかり確認する意識が必要です。タイル工事が終わり足場が外れると
、外観が現れることにより興味を引きモデルルームを訪れる方も増えると聞き
ます。いよいよ完成が近づきました。


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  §21 工事監理-外構、植栽工事

外壁タイル工事が完了すると、足場がとれ建物外周の工事を行います。外構工
事、植栽工事は短期間に工事が進み仕上がった状況が次々と目の前に表れるの
で設計者としては結構刺激的です。竣工間際という時期であり、毎日のように
現場に顔を出していることが多いですが、日々変化があり見る見る出来上がっ
て行きます。

外構工事で注意しなければならないのは雨水の処理です。行政庁(市町村、区
役所等)によって設計段階で雨水をどうやって処理するか指導があり、それに
従っていないと検査に合格せず修正をしなければなりません。具体的には前面
道路に直接流せる敷地内の雨水量を制限しています。また公共下水道に流せる
水量も制限があり、貯留槽を設けて流用を制限しながら処理をしたり、敷地内
に浸透処理することを指導されます。設計段階で図面を提出して認可を受けて
いますのでその図面に従って工事を進めます。

雨水貯留槽を設ける場合は、雨水枡を設け敷地内で雨水を集水することになり
ます。この場合勾配をきちんととらないと水溜りが出来てしまうので気をつけ
なければなりません。また仕上げをする前に地面をしっかり締め固めないと、
所々で仕上面が沈み水溜りが出来てしまうので注意が必要です。敷地内で雨水
を浸透させる場合は、浸透性のある仕上材を使い直接地面に浸透させる方法と
一度集水してから、浸透菅や浸透枡を用いて処理する方法があり併用される場
合が多いです。

植栽工事に関しても、緑化対策として行政庁から指導があります。こちらも設
計段階で緑化計画書を提出して認可を受けます。指導される内容は緑化面積、
低中高木の割合、屋上緑化、壁面緑化、接道緑化等です。全てが必要というわ
けではなく、最低限必要な割合が決められている項目もありますが、基本的に
は幾つかの規定を組み合わせ、基準に沿って換算し面積が確保されれば許可さ
れます。しかし簡単に考えていると大きな問題になることがあります。東京都
の場合は条例となっていますので、守らない場合は罰則もあります。緑化面積
が確保できないと、最悪の場合建築面積を小さくしなければならなくなること
もあり、それを避ける為に金額がかかる特殊工法を選択しなくてはならなくな
った結果、追加工事費を請求されることもあります。事前の計画をしっかりし
ておくことが大切です。

マンションの場合、高木の落葉樹はメンテナンスの面で嫌われます。冬でも葉
が残る常緑樹を指定されることが多いです。季節感があるサクラやイチョウを
植えたいところですが、落葉が多く毛虫や銀杏の臭いの問題もあり却下される
のはほぼ間違いありません。クスノキ、ゲッケイジュ、ヤマモモなどをよく使
います。生垣には、ベニカナメモチが常緑で紅色の若葉が美しく人気がありま
す。ポイント的に落葉樹であってもモミジやハナミズキなどはよく植えられま
す。

外構部分は雨風に晒され、人や車が通行する部分なので直ぐに汚れてしまいま
す。それなりの高価な材料を使っていても表面にほこりや土砂がつまり日時と
共に色あせます。それだけに竣工時の外構部分はとても美しく感じ、アスファ
ルトを敷いただけの部分でさえ黒く輝いて見えます。ほんのりと暖かいアスフ
ァルトを見て工事の完了を感じるのは私だけではないと思います。


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  §22 工事監理-竣工検査1(官庁、審査機関)

マンションの工事が完了すると、建物を使用開始する為に完了検査を受けて検
査済証を取得しなければなりません。建築基準法上、検査済証取得のための完
了検査は建築確認申請を提出した特定行政庁または審査機関(以降、確認提出
先と表記)によって行われます。また、それに先立ち消防署の検査に合格しな
ければなりません。確認提出先の検査と前後することはありますが、消防の同
意を以って建築確認済証を発行しているので、基本的に消防の検査に合格しな
ければ検査済証を取得できません。

その他に市役所、区役所等から多くの行政指導を受けていますので下水道課、
環境緑地課、清掃課、道路管理課、都市整備課等管轄部署の検査を受ける必要
があります。こちらは建築確認申請上の検査済証取得と直接関係ありませんが
、使用開始までに合格していないと指導を受けます。分譲マンションでは入居
者に迷惑を掛けることになるので確実にクリアしておかなければなりません。
また建築の条件よりこれに加え東京都の緑化条例他、都道府県や警察署等の検
査を受ける必要がでてきます。

確認提出先の検査は確認申請図の通りに建物が完成しているか検査をします。
法律に関わる部分は注意深く工事を進めているので、大きな問題になることは
少ないのですが、まれに避難経路上の突出物による幅員不足、避難階段に面す
る開口不可部分の換気口設置等の指摘を受ける場合があります。複数の図面を
照らし合わせないと判断し難い部分なので十分注意して施工しなければなりま
せん。また火災延焼防止の防火設備(主に網入硝子)防火区画の為の防火戸が
的確な仕様になっているかどうか慎重に確認します。人の命に関わる部分は厳
しく検査されます。

一番指摘されることが多いのは、未完成部分についてです。原則として完成し
ていなければ検査は受けられないのですが、予め検査の日程が決まっているの
で部分的に間に合わないところが出てきてしまうこともあります。手摺や庇が
付いていなかったりすると法規違反になることもあり、写真で後日報告しなけ
ればなりません。当然報告が済むまでは確認済証は取得できないことになりま
す。

消防署の検査は防火扉や火災報知器の作動、屋内消火栓連結送水管等消火設備
の設置、避難誘導灯の設置位置と仕様、避難ハッチなどの非難器具の作動と設
置場所、防火区画貫通部分の仕様、消火器の設置位置等の確認が行われます。
図面を提示した上で工事を行いますので大きな問題になることは少ないのです
が、実際に現場を見て誘導灯が見えにくかったり、避難ハッチ使用時に物干し
が障害になるという指摘はうけることがあります。また規模が大きくなると、
はしご車の寄り付き場所の設置、防火水槽の設置等の検査が加わります。

市役所、区役所等の検査は全体をまとめている窓口の部署が各担当者を集めて
検査をすることもありますし、部署ごとに検査をすることもあります。何れに
しても工事完了届を提出すると検査を受けることになります。分譲マンション
の場合には遅くても引き渡し前に全て合格しなければなりません。

どんなに建物がきれいに出来ていても、検査に合格して検査済証を取得しなけ
れば使うことは出来ません。取れて当たり前のことですが、検査期間中は設計
事務所は緊張する日々が続きます。検査当日の段取りが悪かったり、検査官の
質問に的確に回答できなかったりすると、検査官の心証を害し想定外の指摘を
受けることもあります。法律には数字で判断できないことも多く、そのときの
印象で結果が変ります。壊して直すことは建物にとって決してよいことではな
いので、通例の判断をしてもらえるように準備を怠らないようにするのはとて
も大切です。


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  §23 工事監理-竣工検査2(施主、設計事務所)

分譲マンションの場合、官庁関係の検査が終わるとディベロッパーと設計事務
所の検査を行い細かい施工不良箇所を指摘し、手直し工事を行います。指摘箇
所は多数になることが多いため、その後再び確認検査を行い入居者の検査に当
たる内覧会を迎えます。内覧会で出てきた指摘事項も完了確認を行いますから
検査期間はかなりのロングスパンになります。参考までに一般的なスケジュー
ルを紹介させていただくと、3月末に引渡しの例で、2月中旬官庁関係検査、2
月末検査済証取得、3月頭に施主検査、3月中旬内覧会、3月末引渡しというよ
うなスケジュールです。2月中旬に完全に完成している現場はめったに無く、
多くの場合工事を継続しながら検査を行う状況になります。またディベロッパ
ーによっては完成度を高める為に施主検査の期間を長くする場合もあります。

現場の状況も慌しい時期なので、施主(ディベロッパー)と設計事務所は一緒
に検査を行うことが多くなります。一つ一つの住戸を徹底的にチェックするこ
とが理想なので、人数を出来るだけ集めます。設計事務所は小所帯なので5人
来てくださいと頼まれると、事務所の中堅メンバー総出で参加することになり
ます。竣工時期は3月に集中し1日で終わらないこと多いので、検査の時期は事
務所が閑散としていることが少なくありません。

検査はキズ、汚れ、剥がれ、ズレ、ソリ等細かくチェックします。扉の開閉状
況、戸あたりの設置の確認、物干し金物の設置位置、シールの切れ、畳の浮き
等例を挙げればきりがありません。設備機器についても洗面台には水を張って
漏れが無いか、浴槽の排水時間は適当か確認します。指摘した場所は記録して
もらい、現場にはテープを貼ります。手直しが終わってから剥がすようにして
、未修正がないようにします。

パンフレットとの整合も検査しますが、この時点で間違いが見つかると大変で
す。コンセントが反対の壁についていたりすると、壁を剥がしてやり直さなけ
ればなりません。照明の配置が違っていたり、下がり天井の範囲が違っている
こともまれにあります。これらは完成する前は確認し難い部分で、完成してか
ら周囲の状況との位置関係から見つかる場合が多いです。パンフレットに寸法
の記載は無いので、わずかな違いであれば問題になりませんが、大きく違って
いる場所は壊して修正します。

その他、排気口の正面に縦樋があったり、避難ハッチとエアコンの室外機置場
が一部重複していたり、完成して初めて見つかる問題もあります。これらは検
査後緊急会議を開きどの様に対処するか決めなければなりません。また太陽の
光線によって、外壁のタイルの下地処理が悪い箇所が見つかることがよくあり
ます。目に余るものは修正しますが、足場を外してしまっていますから作業が
大変です。

施主検査前後は現場の忙しさはピークに達します。建設会社も人数を増やして
対応します。担当者は現場に泊り込みになることが多く、施主や職人への対応
に明け暮れます。


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  §24 工事監理-内覧会

施主検査が完了し、いよいよマンション購入者(入居者)の竣工検査にあたる
内覧会が行われます。内覧会前は現場は慌しく手直し工事が行われ、チェック
シート等もつくらなければならないので現場担当者はフラフラの状態で内覧会
に突入することがよくあります。ディッベロッパーにもよりますが、10年程前
までは設計事務所が内覧会に参加することは余りありませんでした。あくまで
も営業行為と捉えていたのだと思います。最近は購入者の質問も専門的になり
、その場で問題を解決しないと信頼関係が失われる結果になってキャンセルに
繋がることもあるようで、当日待機させられることが多くなりました。

内覧会当日は建設会社から多くの人を記録員として集めてもらい、購入者1人
(1組)に1人付いてもらい、指摘事項を記録してもらいます。購入者によって
検査内容はかなり違い全体をざっと見て「よく出来てますね」と言って終わっ
てしまう方もいれば、ごくわずかなキズも見逃さないように細かく見る購入者
もいます。

細かいキズやヨゴレは数が多くても簡単に手直しできるのですが、問題になる
のはしっかり施工が出来ているのに購入者の評判が悪く改修の希望が出た場合
です。具体的には「石と目地の色が合っていない」「扉の木目が汚い」等パン
フレットに表現されていない内容です。石と目地の色合わせはサンプルを使っ
て行っていますが、厚さが薄い石などは床に貼ることによって若干色が変るこ
とがあります。また扉の木目は天然木を薄くスライスしたものをボードに貼り
付けている扉を使用した場合、扉一枚一枚木目が変ります。当然シート張りよ
り仕様が高いのですが、自然が生み出す木目はまれにおかしな形を生み出しま
す。

どちらも評価に主観が入るので、指摘通りに改修するべきかどうか判断が難し
いところです。またお金をどこが出すかという問題もあります。製品管理的に
問題があると判断すれば建設会社の負担になりますし、避けられない問題であ
れば施主の負担になります。マンションが完売していれば余りもめることは無
いのですが、そうでない場合はなかなか結論が出ません。最終的には購入者に
出来る限りの理解を求めた上、どうしても直して欲しいという要望がでれば改
修し、工事全体の追加工事を考慮の上金額の調整を行います。

設計事務所は購入者から専門的な質問が出たときに回答するために待機してい
ます。専門職として中立的な立場で対応するため失敗もあります。例えば各室
の換気を確保するためドアを10ミリから20ミリ浮かしていますが(アンダーカ
ット)20ミリ浮かしていると、何でこんなに隙間が開いているのかクレームが
出たことがあります。検査の記録員が「換気を確保しなければいけない法律が
あるため」と回答しましたが、それが納得できない購入者がいて詳しい説明を
して欲しいと頼まれます。いい加減なことはいえないので、「最低10ミリ程度
とされているが、施工誤差やカーペットの厚みを考慮し安全を見て20ミリにし
た」と回答すると、手間を掛ければもっと隙間を小さく出来たはずだ納得して
くれません。結局、販売担当者がモデルルームも同じように作っていたという
説明をして、しぶしぶ納得してもらうことになります。クレームになっていな
い質問は知識が深まったことを喜んでもらえる場合もありますが、クレーム対
応の場合は中途半端な説明が出来ない立場なので火に油を注ぐこともあり、個
人的にはその場で購入者に設計事務所が説明することは余り良い方法ではない
と思っています。

内覧会に参加するのはなるべく避けたいという気持ちも働いてしまいますが、
実際に出来た建物で生活を始める方々に接することにより色々なことを教わり
ます。特に新しい生活に希望を持ち、喜んでもらっている姿を見ると今までの
苦労が何処かに行ってしまいます。工事に関わった全てのものにとって価値あ
る瞬間ではないでしょうか。


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  §25 引渡し

内覧会で指摘された部分の手直しも完了し、あとは建物を引き渡すのみとなり
ました。引渡しは施工建設会社からディベロッパーに引渡した後、入居者(購
入者)に引き渡されることになります。ディベロッパーは長い間建物を保有し
ていると管理上の問題生じるので、引き渡されるとその数日後には入居者に引
渡し、管理会社に管理していただくことになります。

ディべロッパーに引き渡す際、施工会社(建設会社)は色々な引渡図書を用意
します。主な図書は引渡関係書類、取扱説明書、竣工図(構図計算書含む)で
す。これに工事写真、施工図、竣工写真、図面データー等が加わります。主な
図書のうち竣工関係書類と取扱説明書は引渡し当日に提出し、竣工図は作成に
時間がかかるので後日提出することになります。

引渡関係書類は建物引渡受領書類、官公庁関係提出書類及び許可証(検査済証
等)、鍵引渡書、植栽等の保証書、備品リスト、協力業者一覧表、機器試験成
績書等をまとめます。取扱説明書は専有部分の設備機器のカタログをまとめて
住戸数+予備分の部数用意します。部数が多くなるので結構大変な作業になり
ます。共用関係(ポンプ、エレベーター、警報機器等)は別冊にして管理事務
所用に作ります。

竣工図は作成するのが大変です。基本的には設計図を修正し、部分的に施工図
を入れて編集して作るのが一般的ですが、手間もお金もかかります。平成13年
度に施行された「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」により、宅
地建物取引業者は管理組合の管理者が選任されたとき速やかに竣工図を提出す
ることが義務化されました。このため1ヵ月から2ヶ月程度で竣工図をまとめ提
出しなければなりません。

契約上多くの場合特記仕様書に記載があるので、竣工図を作るのは施工会社で
す。図面の修正に関しては設計事務所にやってもらえると思っている会社が多
いようですが、法律上も契約上も設計事務所に修正の義務はありません。発行
元は施工会社であり施工上の責任を持ってもらう意味でも、基本的に現場での
変更(計画変更申請に関わる部分は除く)部分は施工会社に図面を修正しても
らうスタンスです。実際には間違いの無い竣工図を作るために、設計事務所と
施工会社が打合せをしながら作業しますが、全ての修正を設計事務所が行うこ
とはありません。CADで図面が描かれているので外注先に作図を依頼しなけれ
ばならなくなり、なかなか図面の修正が進まないことが多いようです。特に赤
字に近い現場などは何時まで経っても作ってくれる気配を感じません。竣工図
が出来なければディベロッパーは困ってしまいますので、支払いの一部を竣工
図提出時に支払う契約をして、竣工図を作ってもらえるようにしているディベ
ロッパーもあります。

引渡しが終わると現場事務所はなくなり、建物の中にも受付を通さなければ入
ることが出来なくなります。長い間打合せに通い続けたディベロッパーにも行
く機会がなくなり少し寂しい感じがします。しかしその頃には新たな仕事でお
尻に火がついている状況になっていることが多く、感慨に耽る間もなく次の仕
事に集中しなければなりません。


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   §26 全体をまとめて

長い間連載させていただいた「マンションの完成まで」も今回が最終回です。
連載を始めた動機は、社会的に注目を浴びる設計事務所ではなく一般的な設計
事務所がどのような仕事をしているか紹介したいと思ったからです。バブル崩
壊以後、建設業界は不況に喘ぎましたがマンション業界だけは活況を呈し、建
設業界は深くマンション業界と関わるようになります。今現在マンション設計
は設計事務所の仕事の中心的な役割を担っていると言ってよいと思います。

マンション業界の活況はマンションを大きく変貌進化させ、使い勝手がよく販
売価格も安い物件が多くなりました。特徴的な出来事として、民間デベロッパ
ーは分譲マンションの業績に於いて住宅公団(都市再生機構)を追い抜いたこ
とにより、公団は1999年に分譲住宅供給を終わらせました。また床暖房やダブ
ルロック、複層ガラスなど世の中のニーズにあった技術を急速に普及させまし
た。

マンションが普及したことにより、住む場所の個性という点では失ったものが
あるのではないでしょうか。デベロッパーはデザイナーを入れてその点をカバ
ーしようとしていますが、何となくかっこいいとか、うけがよいというもので
はなく、歴史の中の様式となるような個性を生み出すのはかなり難しいことだ
と思います。今後何十年もかけてマンションの価値を高めることを理想に良い
ものをつくり続けていけば、マンションの個性的価値が理解されるときが来る
かもしれません。

また仕事の進め方において、分譲マンション特有の工事業者決定方法、工事監
理方法などはこれまで常識であった競争入札や監理指針と隔たりが生じており
、合理性を考慮の上分譲マンション特有の形に変革して行く必要性を感じてい
ます。

分譲マンションの設計は、マンション販売との関係から通常の建物と少し違っ
た進め方をしなければなりません。パンフレットの作成やモデルルームの建築
等にも設計事務所は関わってきます。他の建物に比べ着工数の割合が高いのに
、分譲マンションに特定した設計監理に関わる詳しい書籍は殆ど発行されてい
ないのではないでしょうか。今回の連載を通して読んでいただければ経験が浅
い設計者も仕事の流れを理解していただけると思います。

最初はもっと色々なエピソードを盛り込み、設計事務所の仕事について業界以
外の方々にも楽しく理解していただこうと思っておりましたが、回を重ねるご
とに技術的な説明が多くなってしまったことは反省しています。しかしマンシ
ョンを購入しようと思っている方が少々解からない部分があったとしても、敷
地の確保から引渡しまで全体を通して読んでいただくことによって得られる、
各論からは得られない知識がきっとお役に立つと確信しています。長い間ご愛
読ありがとうございました。近い内に全体をホームページに掲載の上、少しず
つ加筆して行くつもりです。



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